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Isomorphic LabsがAlphaFold 3を超える創薬AI「IsoDDE」を発表——ElilLillyとNovartisとの$30億ディールが動き出す

DeepMindスピンオフのIsomorphic Labsが、AlphaFold 3の精度を2倍以上超える統合型創薬プラットフォーム「IsoDDE」を発表。Eli LillyとNovartisとの30億ドル超の提携は前臨床候補の生成フェーズへと移行し、2026年内にAI設計分子の第I相臨床試験が視野に入った。

ソース: Nature / The Decoder原文を読む →
Isomorphic LabsがAlphaFold 3を超える創薬AI「IsoDDE」を発表——ElilLillyとNovartisとの$30億ディールが動き出す

何が起きたのか

2026年2月、DeepMindのスピンオフであるIsomorphic Labsが、創薬AIの新基準となる「Isomorphic Labs Drug Design Engine(IsoDDE)」を発表した。AlphaFold 3の後継ともいえるこの統合型プラットフォームは、タンパク質-リガンド結合構造の予測精度でAlphaFold 3を2倍以上上回り、創薬研究の全工程を一貫してカバーする設計になっている。

Natureは「AlphaFold 4のようだ」と報じ、科学者たちは驚きを持って歓迎した。IsoDDEは単なる構造予測ツールではない——小分子の結合親和性を物理ベース手法を超える精度で予測し、アミノ酸配列だけから「未知の結合ポケット」を発見する能力まで持つ。製薬業界が長年求めてきた「薬になる候補分子を計算で見つけ出す」ツールが、ついに実用レベルに近づいた。

IsoDDEはEli LillyやNovartisとの提携プロジェクトにすでに適用されており、初期のターゲット特定フェーズから「複数の前臨床候補」の生成フェーズへと移行中だ。Isomorphic Labsは2026年内に最初の第I相臨床試験(Phase I)への参入を目標とし、腫瘍学と免疫性疾患を優先領域としている。

なぜ革命的なのか——AlphaFold以後の地図

AI創薬の進化を理解するには、AlphaFold以前・以後という時間軸で考えると分かりやすい。AlphaFold 2(2021年)はタンパク質の三次元構造予測を解いた——長年の「グランドチャレンジ」を単一モデルで解決した転換点だった。AlphaFold 3(2024年)はその対象をDNA、RNA、低分子化合物との相互作用まで拡張した。

IsoDDEが超えようとしているのは「構造予測」から「設計」への壁だ。どんな分子がどのタンパク質に結合するかを予測するだけでなく、「どんな分子を合成すれば良い薬になるか」を逆算する——これが創薬AIの最終目標だった。従来の物理ベースシミュレーション(分子動力学法、自由エネルギー摂動法)は信頼性が高いが、1化合物あたりの計算に数日から数週間かかる。IsoDDEはその精度を「わずかなコストと時間で」超えると主張しており、高速スクリーニングと高精度予測を両立させることで、創薬の探索空間が劇的に広がる。

業界関係者が特に注目するのは「新規結合ポケットの発見」機能だ。既存の薬はすでに知られた結合部位を狙っている。IsoDDEは構造情報なしに、配列だけから未発見の標的サイトを推定できるため、「治療困難」とされてきたタンパク質も創薬対象になりうる。これは、既存の薬では対応できない疾患群——「アンドラッガブル」と呼ばれていたターゲット——への扉を開く可能性を意味する。

背景と文脈——Mantis Biotechが示したデジタルツイン創薬との接続

Deep Signalでは先日、Mantis Biotechが人体の「デジタルツイン」を生成するプラットフォームを開発したと報じた。解剖・生理・行動データを統合した合成データセットで、医薬品研究が直面するデータ不足と患者プライバシーのジレンマを突破するアプローチだ。

IsoDDEとMantis Biotechは、創薬パイプラインの異なるレイヤーで革新を起こしている。IsoDDEが「分子の設計と結合予測」を担い、Mantis Biotechが「患者集団の多様性モデリングと臨床試験データの合成生成」を担う——この2つが組み合わさると、「設計→スクリーニング→臨床シミュレーション」の全工程をデータドリブンで加速できる可能性が生まれる。個々の技術革新が独立して進歩しているように見えて、実は創薬パイプライン全体を再設計する地殻変動として捉えるべき動きだ。

両者に共通するのは、「実験ではなく計算で答えを出す」という方向性だ。実験室でのウェット実験は再現性や規模に限界があるが、計算モデルは並列化でき、探索空間の拡張が容易だ。AlphaFold以来の「計算が生物学を先導する」転換が、創薬の全レイヤーで加速している。

今後の展望——$30億の賭けとPhase I

Isomorphic Labsはすでに巨額の資本を動かしている。Eli Lilly(約7億ドル)、Novartis(約12億ドル)との提携総額は30億ドルを超え、業界最大規模のAI創薬ディールとなった。2026年内のPhase I試験突入が実現すれば、AIが設計した分子がヒト体内で初めて評価される歴史的な一歩となる。

ただし、創薬パイプラインの統計は厳しい。Phase Iを通過してPhase IIIまで進む化合物は10%前後に過ぎず、市場承認を得るのはさらにその一部だ。IsoDDEがAIの計算能力でこの成功率を改善できるかどうか——それが2026年以降の最大の問いとなる。製薬大手はその答えに30億ドルを賭けた。

Isomorphic Labsが示すのは、AIが製薬会社の「研究部門の外注先」から「研究の主役」へと役割を変えつつあるという変化だ。AlphaFoldが構造生物学を変えたように、IsoDDEが創薬化学を変えるかどうか、業界全体が注視している。

#AI創薬#Isomorphic Labs#AlphaFold#タンパク質予測#DeepMind

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